古泉×ハルヒ ※「動揺」のネタバレ含みます
ある寒い12月の放課後、部室を暖めるのは隅に置かれているヒーター1つのみという状況下。こんな時にはブレザーの中にセーターを着込んで防寒した上、朝比奈さんが入れてくれる熱いお茶をすすり身体の芯からぬくぬくと暖まりたいと願うことは、僕だけでなく先に帰宅した彼も同様だろうと思う。
思う、のだが。現実には僕は上半身に何も身に付けない状態で、外気に晒されている肌を寒さに粟立たせていたのだった。
向かい合わせて立っている涼宮さんは至って普段通りで、勿論制服をちゃんと着込んでいる。
何がどうしてこんな事態に陥ってしまったのかーきっかけは決して大したものでは無かった。
「できたわっ!」
最後のマス目の枠をポスカでぐりぐり色付け、涼宮さんは得意げに言い放った。
「完璧っ!SOS団団長様と副団長様のお手製のスゴロクゲームよ。これが面白くないはず無いわ!」
「ええ。皆さんと遊ぶのが楽しみです」
今冬の合宿の余興にと、他の団員を含む参加者には内緒で、ここ数日涼宮さんと2人で居残りスゴロク作りに励んでいたのだ。彼女は顎に手を添えてからにこっと笑ってこう言った。
「2人で1度やってみちゃわない?」
「いいですね。よろしくお願い致します」
先に遊んでしまうのは団員達に申し訳無いと思いながらも、これも作った者の特権だと心の中で言い訳をして彼女の案に乗った。
止まったマスに書かれているバツゲームのようなものも律儀にこなして、涼宮さんに多少リードされつつも順調にコマを進めて行った。
「あーしんどい!こんなマス作るんじゃなかったわ。キョンに限りって書いちゃいましょ」
彼女はしまっていたポスカの蓋をキュポッと外して「腕立て三十回」の前に小さく文字を付け足した。どのマスに止まった時も涼宮さんは大きなリアクションをして、2人きりのスゴロクなのにとても楽しい気持ちになる。
「はやく振って振って!」
「はい」
サイコロの目は4。トントンとコマを進めた先の指示は。
「野球拳…ですか」
「あら。古泉くん、ルールは知ってる?もちろん郷土芸能じゃ無い方ね」
「えっと……」
この場合の野球拳とは一般的に浸透率の高い、ジャンケンをして負けた方が着衣を一枚ずつ脱いでいくゲームの方の意味ですよね。グー・チョキ・パーを野球の投手・打者・走者になぞらえているので野球拳と呼称されています。
「そうそれ。じゃあいくわよっ!」
ーーこうして冒頭に繋がる。
上履きから始まって靴下にブレザーにセーターにネクタイ、シャツを次々に手放すことになった。ジャンケンで6連敗する確率は2の6乗分の1だろうか。…およそ有り得ない数字だ。いくら自分が勝負ごとに弱いからといってここまで偶然が続かないだろう。だとしたら涼宮さんの力が働いている可能性が?いや、今の展開を彼女が望む理由が無い。その証拠に涼宮さんは困ったような複雑な表情を浮かべていた。
「これ以上は止しとこうかしら。…なんていうか、シャレにならなくなるわよね」
合宿で大勢の中の野球拳ならばその場のノリやテンションが緩和してくれるだろうけど、今は静かな放課後の部室で男女2人きりだ。経緯を知らない人が見たら、真冬の校舎で1人半裸で突っ立っている僕はただの変態でしかない。……
「…はい。不甲斐無いです」
非常に情けないけれど、涼宮さんの助け舟に乗らせて貰うことにした。
「気にすること無いわ。こういう日もあるわよ、うん。ほら寒いでしょっ?副団長に風邪を引かせるわけにいかないしね」
早口で言い、たたんでいた僕の制服を持ち上げ差し出してくれた。
「ありがとうございます」
「…古泉くんって色白いわよね」
「うわっ」
突然肩を撫でられて身を引く。な、何をなさるんですか涼宮さん。
「んー。別にー?」
悪戯っ子のような笑みで、服を着直す間もこちらを見続けている。そんなに見られていると緊張してしまうのですが…。服を整え終えると、彼女は何事も無かったように団長席へ戻ってスゴロクを再開させた。
「そうねえ……」
僕も遅れてパイプ椅子に座り直した。
「礼儀礼節があって、気が利いて優しくって」
「?」
彼女が何を喋っているのか、分からなかった。
「知的で、かっこよくって、笑顔が最高っ!」
そう言い切って、がばっと顔を上げた。僕は彼女のコマが置かれたマスに視線を動かす。
「団長を気分良くさせる言葉を、五種類以上言う……」
「団長はあたしだからね。あたしが止まった場合は自動的に副団長の古泉くんになるわけ。なんだか安っぽい言葉しか出てこなくってアレね、悔しいわ。…ねえ、どう?」
彼女の表情は心なしか不安げに見えた。
「光栄です…ありがとうございます」
先程の褒言葉は、全て自分のことを言ってくれていたのか。僕の方こそ何て返していいものか分からない。こんな時こそ最高の笑顔をして見せるべきなのに、上手く表情が作れない。
「いつも古泉くんがあたしを気分良くしてくれてるから、お返ししたいのにな〜」
「滅相もありません!充分すぎますよ、えぇ、ほんとうです」
「…ふふ」
しどろもどろにしか言葉を紡げない僕に、にっこりと微笑んでくれた。
「照れてる古泉くんかわいい!今日は珍しい表情が沢山見れて良かったわ。そりゃあやっぱり笑顔が1番魅力的だけど、色んな顔が見てみたいって思うもの。野球拳の困り顔も貴重だったわ。ああいうの、もっといっぱい見せてほしい」
「涼宮さん……」
「あ、やらしい意味じゃないわよっ。団長が副団長のこと不純な目で見てるなんて思われたらSOS団壊滅の危機だわ。ヘンな誤解を生んじゃいけないように、他の団員たちには今日のこと内緒だからね!」
「あはは、心得ました」
「合宿の時またこのマスに止まった場合は、もっと気の利いた台詞を言ってみせるわよ!リベンジよリベンジ!」
「楽しみにしています。僕も、涼宮さんを楽しませてさしあげることのできる合宿になるよう 努力を惜しみません」
「ええ。期待してるわよ副団長っ!」
果たして年末の合宿にて涼宮さんがそのマス目にコマを止めたのか、止めたとすればその言葉の内容はどんなものだったか。それはほんの些細なことに過ぎなかった。何故ならSOS団の皆、そして涼宮団長と一緒にいられるだけで他の何物にも代え難い、幸せな気分にさせてくれるのだから。
ハルヒと古泉のやり取りを妄想してるとほんわかしてきます。もしかしてこの2人、バカップルになる可能性を秘めている…?(笑)とか言いつつ、途中からいかがわしいルートに進むパターンも考えていました。やめてよかった。
2007/11/4