古泉×森
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「!!????」
古泉一樹はその予想外の光景に思わず後ずさり、今し方開けた扉を閉じ退室を試みかけて思いとどまった。
「失礼な反応ね古泉。ツンデレメイドの方がお好み?」
長机と折り畳み椅子のみが配置された殺風景な会議室に、何故かメイドに身をやつして深々とお辞儀をする森園生の姿があった。
「ツンデ…なんですか?」
「もっとテレビを見た方がいいわ。ほら、そんな所に突っ立っていないで部屋にお入りなさい」
古泉は恐る恐る入室し、促されるままパイプ椅子に腰掛けた。
「メイドは見慣れているでしょうに。お茶を入れるのが得意なあなた達のかわいいメイドさん」
「いえ、まさか森さんのメイド姿を再び、このような場所で拝見できるとは想定しておらず驚いてしまっただけです。それで…一体何があったのです?」
「何も無いわ」
「……」
あっさり返されてつい怪訝な表情で応えてしまう。定例会議の無い日にいつもの会議室へ呼び出しを受けた古泉は、てっきり何かの緊急任務を言い渡されることを想定していたのだ。
「ふふ。とりあえずお茶でもどうぞ。給湯室からかっぱらって来たパックの玄米茶だけれど」
そして思い出したように恭しいメイドスマイルを装着して、
「お待たせ致しました。玄米茶でございます。お熱いので火傷にお気をつけ下さいませ」
戸惑う古泉の手元に静かに湯飲みを置いた。
「あ、ありがとうございます」
「ふーふーしましょうか?」
「結構ですっ」
なんなんだこの状況は。メイドは今夏に孤島を舞台に機関が企てたサプライズイベントにて演じた際の森の配役だったというだけで、普段の森はOLの様な普段着を着用している。古泉は混乱し、視線を泳がせていた。
「一応メイド喫茶を意識しているのだけど…通じて無いかしら?今度の文化祭でも2つ3つはあると思うわよ」
「存じてます」
現在はちょうど文化祭シーズンで、古泉もSOS団とクラスで準備に追われていた。古泉は湯飲みに慎重に両手を添えお茶をすすった。
「どう?」
「美味しいです」
「よかった」
森は机の脇に立ったまま古泉を見下ろしていた。
「近頃お疲れのようね」
「そんなことー…いえ、正直参っていますね。それを表に出してはいけないのに。涼宮さんが退屈を感じず日常生活を送り、閉鎖空間の発生頻度を減少させることが僕の役目です」
「まさに青春を謳歌しているわね」
「ええ本当に。目映いばかりですよ」
「古泉、あなたもよ」
古泉は口へと持っていった湯飲みを空中で止めて、目を瞬かせた。
「何ですその意外そうな表情は」
森は短い笑い声を上げて目を細めた。
「役目なんて忘れて楽しんでなさい。いえ…もう以前ー孤島の時からあなたは楽しそうにしてたわ、心の底からね。不思議なことにあなた自身は気づいてないみたいだけれど」
「でも、」
「彼女に尽くすうちにいつしか、役割なんて関係無しに古泉もちゃんと楽しんでいった。それを青春と言わずなんと言うのかしら。副団長さんの心からの笑顔を涼宮ハルヒも望んでいるでしょう。若いのだから余計なこと考えないで、元気に忙しい青春を過ごせばいい」
沈黙する古泉を一瞥してから続けた。
「まあ、あの空間以外のあなたはいたって普通の人だから、疲れる時は疲れるわよね。……そんな時はメイドのお姉さんが癒してあげる。最も、殺風景な部屋にパックのお茶じゃ癒し効果なんて皆無だけど」
そう言って森は古泉とよく似た仕草で肩をすくめた。
「メイド喫茶において、店内の内装と飲食物の美味しさが必ずしも重要な要素だとは僕は思いません」
古泉は湯飲みを置き、指を組んで真っ直ぐ森の顔を見上げた。
「メイドさんが魅力的であれば、他の事柄の良し悪しは些細な問題に過ぎませんね」
「それはそれは…ますます自信が無いわ」
「……僕はこのメイド喫茶を気に入りました。常連として通い詰めたいほどに」
2人はほとんど同時に視線を逸らした。森の薄い微笑の表情の中に僅かに動揺の色が浮かんだことに古泉は気づいていない。
「褒めても胸は貸さないけれど。当メイドカフェにはオプションは御座いません」
「それは残念」
古泉はお茶を飲み干して湯飲みを森に手渡して礼を告げた。
そしてドアの前でこんなやり取りを交わす。
「いってらっしゃいませ、ご主人様」
「行って来ます。遅くなるかもしれませんが、必ず帰ります」
フラグが立ったー メイド森さんに癒されたいです。
2007/12/23