キョン×古泉 途中でキョン視点から古泉視点に変わります
古泉は無類のボードゲーム好きだが残念ながらゲームの腕は比例せず、はっきり言ってめっぽう弱い。トランプにオセロにチェス、五目並べと様々なアナログゲームで対戦したが大体が俺の圧勝。いくらゲームが好きでもこうも負け続けていては楽しくないだろうに、現在も飽きもせず果敢に挑んできている。
「青札も取られてしまいましたか。リーチがかかっていたので悔しい限りです」
「そうだろうと思った」
本日のゲームは古泉持参の「花札」。2人対戦の「こいこい」はガキの頃祖母の家で少しかじっただけで久々だったが、これが中々面白い。勝負時を見極めるタイミングが重要で、度胸と駆け引きを要するスリル満点のカードゲームだ。
……コイツが相手じゃなかったらな。
「な、何ですか?」
「いや」
最初は俺の機嫌取りのために弱いフリをして勝ちを譲られているのかと疑ったものだが、すぐにその疑惑は拭い去られた。コイツは見た目ほど器用な奴じゃない。
何度負けてもまた笑顔で誘ってくるものだから、寧ろ進んで弱みを見せたがっているのではないか、なんて考えてしまう。ボードゲームに限らず、俺の前でだけ愚痴っぽくなったり疲れた様子を見せたりすることがあるからだ。自惚れだろうとは思いつつも、もしその通りなら悪い気はしない。それに負け慣れているだろうに悔しがる古泉を見るのも悪くないのだ。俺はゲームは片手間に脳内脱線を始めた。
「随分と嬉しそうで…勝算がお有りのようですね」
顔が緩んでしまっていたのか古泉は俺を見てそう言った。
「確率は低いですが…未だ出ていない“菊に盃”をもしあなたが取れば“花見で一杯”と“月見で一杯”の出来役が完成して一気に10文。これは痛いですよ」
そこまで推理できるくせに何故に勝負に勝てないのかね。
俺の表情を余裕の笑みと勘違いした古泉は、速めの勝負を仕掛けてきた。
「上がりです」
「って、カスかよ!」
役にならないカス札10枚で1文。嬉しそうにスコアに点数を記入する古泉には悪いがなんの足しにもならんぞ、今の点差を考えれば。
「では来月は僕が親ですね。次も頂きますよ」
挑戦的な微笑みを向け、カードをよく繰ってから並べていく。
「はっ。させるか」
弱みを見せたいのならば、素直に助けを乞えばいいのに。
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僕はゲームが弱くて、彼はつまらないだろうにいつも文句を言わずに付き合ってくれる。手加減されないということも僕にとってとても嬉しいことだった。彼にとってせめて暇つぶしくらいになってくれていることを願う。
放課後の部室でアナログゲームに興じることは最早日課である。最初の頃は僕が一方的に誘っていたのだが、現在はどちらともなく自然に机上に何かのゲームを広げて始めるようになっていた。
「お前からだぞ」
「よろしくお願いします」
花札は地方や家庭によって遊び方が細かく異なるが、個人的に馴染みのあるルールを採用してもらった。ゲームは全12回で、各回で得た点数(単位は“文”)を最後に合計して勝敗を決める。ちなみに1回2回…の回数は一月二月…という風に置き換えて数えられる。カードの絵柄にも各月ごとに花鳥風月が取り入れられており、例えば二月は梅にうぐいす、六月は牡丹に蝶が描かれている。札を並べると机上が一気に華やかになるのだ。
今回は紅葉と鹿の十月。残すところあと3試合だ。
「ふふ。“松に鶴”は頂きます」
「お前にそのカードが使いこなせるかね」
確かにこの札は難しくて、“三光”、“四光”、“五光”のどれかを完成させなければ無力なのだ。手に入れるのが難しい絵柄を3〜5枚揃えなければ点数にならない。だが逆に作ることができれば5文〜10文加算されるから大逆転も狙える。もっとも僕は三光すらお目にかかったことが無いのだけれど。
「10文あっても引っくり返せないんじゃないか?」
「……僕は諦めませんから」
こう返すと、彼は溜息を吐きながら薄く笑ってみせた。
いつもそうだ。やれやれと不満そうにしてみても付き合いが良い人で、しっかりこちらを向いていてくれている。
ゲームにはそれぞれのルールがあるけれど、それを順守してさえいれば他の何事にも囚われなくて済む。勝敗はゲームの中だけのものであり、負けたからといってリスクは発生しない。いつしかこの日常的ないつもの時間が、心地よくてたまらないものになっていた。
とは言え上達の兆しが見えないゲームのレベルはいい加減どうにかしなければ彼に申し訳ない。愛想を尽かさぬ彼にどうやら僕は甘えすぎているようだ。
そんなことを考えながらゲームを黙々と進めていた僕は、自分の目を疑った。
「あの……“五光”、です」
手札には先程得た“松に鶴”に、“桜に幕”、“ススキに月”、“小野道風にカエル ”と“桐に鳳凰”のカードが並んでいた。信じられない…
「おおっなんて縁起のいい。すげえな古泉」
「ありがとうございます」
「上がるだろ。10文だったな?」
「あ、はい」
ぼうっとしていた僕の手元からスコアを手繰り寄せ、点数を記してくれた。
「あー、まぁ、五光三連発かつ札とか猪鹿蝶とか集めりゃ逆転できっぞ」
「うわあ。がんばります」
長期戦は何が起こるか分からないものだ。ある日突然奇跡が起きるかもしれないし、最後には僕でもルール…立場無視の自然な振る舞いができるかもしれない。
この時の花札勝負はやはり負けてしまったけれど、それでもいい。明日も彼と違うルールのゲームをするのだから。
サイト名から取りまして、花札をするお話でございます。書いておきながら花札のルールあやふやで沢山間違ってそうですが…お許し下さい。 互いが互いに片想い、をイメージしました。こい×こい
2007/12/26