機関オール ※「動揺」のネタバレ含みます
「あけましておめでとうございます」
11の声が重なり部屋に響いた。
年越しの瞬間にはSOS団5人に加えてキョンの妹と別荘の持ち主鶴屋さん、さらに推理ゲームの出演者にして古泉の組織仲間である新川、森園生、多丸圭一、多丸裕とトリックに使用された猫2匹までもが輪になり正座していた。
決まり文句を口にした11人ともが、幕を下ろした昨年もしくは新たに始まる新年へ思いを馳せて微笑んでいる。先程まで疲労の色を浮かべていた古泉も10の笑顔を見渡すと、年明けと共にリセットされたかのように、いつもの如才無いスマイルを振りまいていた。
ハルヒの「解散」の声をきっかけに、皆バラバラと腰を上げて円がくずれていく。新川・森の使用人役コンビは、最後まで各々の配役に徹してSOS団メンバー達を寝室へ案内していた。
古泉はその場に立ったまま動かず、2人に声を掛けた。
「新川さん、森さん。お2人は案内を終えたらもう一度こちらへいらして下さい」
「畏まりました」
古泉に演技を続ける必要は無いのだが、完璧主義者なのか律儀なのか、恭しいお辞儀で答えた。
「すみませんが圭一さんと裕さんも残っていて頂けますか」
「分かったよ」
「うん」
対して多丸兄弟の返答は自然かつ簡単だった。
「お待たせ」
再び共有スペースに戻った新川と森は、衣装は執事とメイド服のままだが役柄の仮面を外した表情を浮かべていた。古泉は一歩進み出て口を開く。
「まずは今日、いえ昨日、昨年の出来事ですね。夏の合宿に続いてお世話になりました。年末のお忙しい時間を割いて頂いて、感謝の言葉も尽きません。皆様、お疲れ様でした」
「どうかお気になさらず」
「そうよ。とても意義のある任務だったわ」
「こちらこそ楽しませてもらったよ」
「良い年越しだったね」
新川、森、圭一、裕は順々に、表情に笑みを添えて返した。
「新川さんの執事役は恐ろしいほどのハマり役でしたね」
「新川のそれは素だからな。私も見習わなくては」
「さすが、紳士の鏡」
「まことに恐縮です」
男性陣の称賛の中、新川はまるで執事が本職であるかのような物腰で返す。古泉は森にも話を振った。
「森さんも本物のメイドさんのような奉仕っぷりでした。普段の森さんを知ったら皆さん驚くでしょうね」
「あら古泉。どういう意味かしら?」
「深い意味はありませんよ」
「ふふふ」
見慣れた光景だったが、圭一は苦笑して話題を変える。
「昨夏の死体役は大変だったな。身動きが許されないからね。だから今回は楽なもんだった。死んでいますと言っているだけでよかったからね」
「兄貴はクランクインからクランクアップまでが早かったな。かく言う僕も新川と森にもてなされたり、若い人たちと遊ばせてもらったりと役得だったよ」
「あはは。なかなか純粋に楽しんでらっしゃいましたね。良いことです」
和やかに昨夏と今冬のミステリーツアーを振り返り、まるで反省会の雰囲気だ。
しかし古泉は労いの言葉を掛ける為だけに機関のメンバーに集合して貰ったわけではなかった。
「報告があります」
ワントーン下がった古泉の声が、皆の視線を集める。
「吹雪の山荘、でのことね?」
「はい」
機関主催のサプライズイベントを催した大晦日の前日、SOS団が遭遇した白昼夢。何者かに仕組まれた雪山での遭難と、謎の館の脱出劇の詳細を語った。4人は相槌を打ったり唸ったりしながら静かに耳を傾けていた。
だがこれも本当に話したかったことではなかった。これらの話はいずれ年明けの機関の定例会議にて報告する予定だ。古泉にはこの4人にしか伝えられないことがある。
「こちらの空間へ戻る前に、僕は次のような発言をしました」
一呼吸おいて1人1人の顔を見渡す。古泉の表情は緊張に強張っていた。
「今後再び長門さんが窮地に追い込まれることが起きれば、それが機関にとって好都合なことでも、僕は一度だけ機関を裏切り彼女の側に味方する、と」
「僕はSOS団に入団後涼宮ハルヒを監視する任務に就き、彼女に平穏な生活を過ごして頂く為にと機関の一員として努めてきました。しかし何時からか僕は副団長として、団員皆に対する仲間意識が芽生えていたのです。仲間の危機を救えるのならばこの先、機関の命に逆らうことも厭わない。……一度だけと表現したのは、二度目なんて存在しないからです。上や他の派閥の方に知れたらタダでは済まないでしょうから」
古泉は一言一言を噛みしめるように発し目を伏せた。言ってから、皆の反応が怖くなって睫毛が震えてしまう。
「覚悟しておくわね」
「何が起きたとしても私は古泉様の味方です」
「ああ。そんな一大事は起きないに越したことは無いんだけどね」
「一樹くんどうしたんだい?顔を上げて」
全員があくまであっさりと、いつも通りのトーンで返す。古泉の開いた瞳には、先程と変わらぬ笑みを湛えた4人の顔が映っていた。
「……何を言っているのかお分りですか?僕の発言と意志、これを認めてー裏切りに加担、すると。そんなことをすれば間違いなく機関を追われることになります…いいんですか」
「当然」
「です」「だよ」等語尾にバラつきが有ったものの、同じ単語をハモって即答される。
古泉はと言うと、こういう場面でどんな表情をして何を言えば良いのか分からないのか、眉を寄せ口を押さえて視線は宙をさまよっていた。
「何だかわくわくしてきた私はおかしいのかな?」
「分かるわよ。古泉の考えるシナリオより断然面白そうな展開だもの」
「古泉様のご立派な覚悟に、既に感動致しました」
「みんな不謹慎だなあ」
「ごめん、そんなつもりじゃないんだ。でも実際来るなら何でも来いな気分だよ。弟に刺殺される展開以外ならね」
「それは無い。兄貴が僕らを裏切るようなことが無ければだけどね…はは」
「裕様、目が笑っていませんぞ」
「おぉ怖い。まあ機関に追われるハメになっても、向かい討ってみせるさ」
「森、頼りにしてるよ」
「ちょっと。何故わたしなの?」
「はっはっは」
4人はわいわいと、このシチュエーションにそぐわない明るさで話を展開している。
ここで取り残されていた古泉がようやく口を開いた。
「本当に僕は…皆さんの、大きさに、甘えてしまってばかりです…。もう1度問います。本当によろしいですか」
「しつこいわね。こっちが聞きたいわ。あなたの味方をしてもいいのでしょう?」
「……」
古泉はぱくぱくと口を動かして少しの間沈黙したのち、声を出さずに大きく頷いた。
森は満足げに口の端を吊り上げ、新川は見守るような暖かい視線を注いだ。裕は古泉の肩をポンッと叩き、圭一はさらりと髪を一撫でする。
「古泉様は私達を信用して全てをお話下さりました。そのことが大変嬉しゅうございます」
「機関内で1番、私達は涼宮さん達と近くで過ごす機会があった。だから一樹くんのSOS団副団長としての気持ちは分かってるつもりだ」
「君が大事に想うあの子達に危機が迫るのを傍観する自信は無いね。何より一樹くん、君が危ない目に合わされて黙ってられるもんか」
「わたし達、とっくに運命共同体じゃなくて?これだけではあなたは不安に思うかもしれないけれど」
新川、圭一、裕、森の言葉が次々に古泉の胸の奥深くへ染み込んでいく。
「これぞ少数精鋭、心強いことこの上ありません…」
再び口を押さえて呻くように続ける。
「なんと言ってよいものか…もう、皆さん1人1人に抱きつきたいくらいですよ、ええ」
「セクハラで訴えるわよ?」
「し、しませんとも」
森の冷ややかな声に、慌ててぶんぶんと頭を振る。
「ふふ。あら…古泉、ひょっとして泣きそう?」
「え、本当かい?」
森が古泉を覗きこんで言うと、裕も身を乗り出す。茶化す2人に圭一はやれやれと新川に目配せする。
「…そういうことは勘付いても言わないものだ。なあ新川」
「ハンカチなら用意してございます」
「な、何言ってるんですかそんな子供じゃありませんよ!もう部屋に戻りますからねっ」
「ちょっと古泉!恥ずかしいことじゃないのよ。だから此処でお泣きなさい」
「何処でも泣きませんっ。お集まり頂きどうもありがとうございました!」
そう言い捨てた古泉は逃げるように早足で扉へ向かう。
「古泉」
『一樹くん』
「古泉様」
4者はそれぞれの呼称で呼びかけてから、揃えて言う。
「おやすみなさい。よいお年を」
古泉は振り返って、ふにゃっと幼い笑顔を見せた。
『死亡フラグ 5人で立てれば 怖くない』(新春の一句)
みんなに愛をこめて。もし本当に古泉が機関を裏切ることになっても、この人たちもついてきてくれるって信じてる。格好良い大人たちです。 ちょうど元旦に更新ですぜ!
途中誰の台詞か分かりにくいですね。圭一さんの一人称は「私」、裕さんは「僕」、森さんと新川さんは口調で判別できることを願って…
2008/01/01