花札あそび

文章

古泉×森


「荒いっ!荒いです森さん!出ます口から吐しゃ物的なものが出てしまいます…!うっ」
「わたしのハリケーン・G・キング3世が火を吹くわー!おほほほ!」
「だから新川さんが良かったんです…んぐっ」

 愛車の名前らしき横文字を叫びながらぐるんっと豪快にハンドルを捌くのは<機関>のマドンナ森園生。森に恋心を抱く男性が今の彼女を目にすれば、それが例え<神人>に動じぬ強靭な超能力者だとしても、裸足で逃げ出したくなるに違いない。

「うわああ!このままでは僕もGさん1世2世と同じ場所へ逝ってしまいます!」

 助手席にはハンサムスマイルが魅力のエスパー少年古泉一樹。穏やかさもクールさも消失し必死の形相で裏返った声を発する彼を、見る人が見れば世界も滅びかねぬというものだ。

「略すな!ハリケーン・G・キング3世こそは不死身よー!大船に乗ったつもりでどしんと構えてなさいっ」
「大船とは対極の位置にある乗り物ですが…っもう、うおえっ内蔵出るっ……」

 更にGは「ゴールド」の略だったかなあ等とどうでもよいことを考えだした辺りで、古泉の意識は白んでいった…




ホワイト・アウト・デイ

「おつかれっ、古泉♪」

 爽快な笑顔で隣に腰を下ろした森を恨めしげに見返す古泉は、顔面蒼白で口を開く気力も無い。

「何ですかだらしない」

 森はペットボトルの水で濡らしたタオルを古泉に押し付けた。
 本日は<機関>の任務で2人タッグを組んでおり、敵対組織の動きを監視するためターゲットのボックスカーを追っていた。捕獲では無くあくまで観察なので、不穏な行為が見られなかったこの時点で任務完了、本部に報告へ戻る前に休息をとろうと古泉が提案したのだった。
 住宅街と海が一望できる山道の上で、森は気持ちよさそうに伸びをする。

「生き返るーっ」
「それはよかったですね…」

 辛うじてこの世に踏みとどまっているような虚ろな顔をした古泉がぼやいた。ペットボトルを目にして、思い出したように細長の紙袋を手繰り寄せる。

「ああ。何ですかそれ?助手席で大事そうに抱えていたけど」
「バレンタインのお返しです。よかったら受け取って下さい。…割れ物ですのでお気をつけて」
「バレンタイン?なにかあげたかしら」
「チョコを一欠けら」
「ああ」

 ぽんっと手を叩いて「忘れてた」と舌を出す森に「やっぱりね」と諦めたような視線を流す古泉だった。

「ホワイトデーというものですね。毎年縁が無いものだから忘れてました。今日がそれ?」
「いいえ、まだです。当日は平日なのでお会いできる保証が無いなと思いまして。遅れるよりは早い方がよいかと」
「ありがたく受け取ります。開けてもいい?」
「どうぞ。お気に召して頂ければよいのですがー」

 ばりばりっと包装紙を破いて出てきたのは1本の透明なボトルだった。

「ワインだー!」

 目を輝かしてボトルを掲げる森を古泉は微笑ましげに眺めている。

「なるほど、白ワインってホワイトデーにかけたのね、なかなか粋だわっ。よくやった!」
「と言いながらホワイトデーはどうでもよさそうですね…まあいいのですが。ワインがお好きな森さんには、これしか無かろうと思いまして」

 森は白のラベルを撫でながらうんうん満足そうに頷いている。

「新川と買ったの?」
「良く分かりましたね。仰る通りです。未成年の僕が1人では買えませんから」
「後でお礼を言っておきます。そうねー古泉と一緒に飲めないのが残念だわー」
「顔には“独り占めできるやっほーい”と書いてありますが」
「やだ、そんなことありませんよ」

 彼女は今日1番の良い笑顔を古泉に向けた。



 

 

 2人を乗せた車はゆっくりと山道を南下していく。

「安全運転もできるんですね」
「帰りは急ぎませんからね」
「デートみたいですね」
「……」

 すっかり回復した古泉は白い歯が眩しい得意の笑顔をふりまいた。
 窓の風景が流れる速度が変化する。

「うわっ何でスピード上げるんですか」
「気持ち悪いこと言うから」
「酷いな…」

 苦笑する古泉の腕には行きと同じ、ボトルの入った紙袋が大事そうに抱えられている。

「僕、高三になったら免許取るんです」
「そう」
「隣に乗ってくれますか?」
「席を替われということ?」
「いえ、ですから仕事でなくデートで。ドライブデートですよ。憧れませんか?」
「……」

 またも無言でアクセルを踏み込む森。

「だっ、だから何故スピード上げるんですか。制限速度の2倍いっちゃいましたよ」
「そういうものなの。バカ正直に制限速度守ってとろとろ走ってたら逆に後車に迷惑なの。制限速度イコール最低速度のことなのです。免許欲しいなら今から勉強なさい」
「明らかに嘘でしょう。話を逸らさないで下さいよ…」

 溜息を吐いてからいつもの身振り手振りを交えて続ける。

「言ったら怒ると思いますけど、森さんと相乗りできる人物なんて僕くらいのものですよ。僕が1番…」
「むかつく。あなたはバレンタインでモテモテだったのでしょーけどどうせわたしはバレンタインにもホワイトデーにも関係の無い人生を送っています!ボランティアのつもりだったならワインもいりません返す!」
「えっ?何故そうなりますか!」

 重要な箇所を遮られた古泉は、呆れた表情と声音で非難する。

「……。高校の女の子達のお返しは何を贈るのです?」
「…何もしませんが」
「何故。わたしのよりうんと高価なチョコレートを沢山貰ったでしょうし、わたしのよりずっと想いがこめられたものばかりでしょうに」

 白い目をしてつんっと言う森に、古泉は眉尻を下げて呟いた。

「え…そうなんですか?森さん…」
「……」
「じゃあちょっと、考えさせて頂きます」

 古泉は腕組みして口を閉ざし、真っ直ぐ前の道を見つめていた。沈黙した車内に気まずい空気が流れる。古泉が紙袋を片手に持ち替えた動作を森は視界の端で捉えた。
 スピードメーターの針が時計回りに落ちていく。

「あなたのクラスの理系スマート美少女Aさん、選択クラスでお顔を合わせるミニマムフェアリーBさん」
「はい?なに唐突に我が校の生徒の個人情報のたまってらっしゃるんですか」
「家の方向が一緒の優しい上級生Cさん、それから新川…もちろん涼宮ハルヒさんにも……」
「その5名の共通点が計りかねるのですが…」
「負けないつもりですから!運転席でも助手席でもいいけど、古泉の隣は譲らないわっ」

 そう言い捨てた森は一気にアクセルいっぱい踏み込んで、その反動に古泉の身体がシートにめり込んだ。

「あ…チョコ…頂いた方々ですね……うぷっ」

 古泉は弱く呻いてから白目を剥いて、本日2度目の気絶を体験した。



end

 ホワイトディラブコメディでした。新川さんには私から米焼酎でも献上します。
2008/3/8